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京都大学大学院文学研究科西洋史学研究室は、21世紀新COE研究会活動の一環として、本年3月に下記の国際シンポジウムをおこないます。御関心のある方はぜひ御参集くださいますよう御案内申し上げます。
■ シンポジウムの趣旨 京都大学文学研究科のCOEプログラム「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」における、わたしたちのサブ・プロジェクト「歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ」は、ヨーロッパ連合というトランスナショナルな共同体が形成され、その空間的な領域が拡大されつつある現状をふまえて、ヨーロッパにおける「地域」と「アイデンティティ」のあり方を歴史的な視点から多角的に再検討することを課題として出発した。今回のシンポジウムでとりあげる中・東欧地域は、東西冷戦の終結とヨーロッパ統合の進展という国際情勢の変化が歴史研究にとりわけ直接的な影響をおよぼしつつある地域であるといえよう。 近年の中・東欧史研究に生じつつある変化は、新たな研究視角の導入、研究組織の再編、歴史的地域の再設定、などさまざまな側面におよんでいる。たとえば、この地域に特有の貴族層を主体とする共和政的な政治文化の再評価や、複数の宗教・言語集団を包含する複合的な国家体制への注目は、社会主義体制から自由主義体制への転換とヨーロッパ連合の東方拡大という現状をふまえて浮上してきた新たな歴史研究のテーマである。また、東西冷戦期の分断状況が消滅した結果として、この地域の研究者間の国際的な交流は従来以上に活発におこなわれるようになり、一国単位で完結したナショナル・ヒストリーの枠組みを越えて、中・東欧地域全体を視野にいれた歴史研究がおこなわれつつある。今回のシンポジウムでは、そのような中・東欧地域の歴史研究の最前線で活躍する3名の研究者を現地より迎えて、中・東欧における「地域」史研究の可能性や、この地域におけるアイデンティティ複合の歴史的特質について、新たな角度から検討し、議論することを試みたい。 今回のシンポジウムではとくに近世という時代に注目するが、これは、近代的なネーションを中心に構築された19・20世紀の歴史認識を再検討するうえで、近世の中・東欧がきわめて興味深い素材を提供してくれるからである。近世をつうじて、この地域は、神聖ローマ帝国、ハプスブルク国家、ポーランド=リトアニア共和国という3つの広域的で複合的な国家によって支配されていた(このうち前2者は領域的に重合している)。これらの国家はいずれも、宗派、言語、エスニシティを異にする複数の社会集団を内に含んでおり、近代的な国民国家とは異なる制度的構造――J. H. エリオットのいう「複合君主制」composite monarchy――をもっていた。また、君主の権力に比べて相対的に諸身分――神聖ローマ帝国の場合には帝国諸侯・都市、ハプスブルク国家とポーランド=リトアニア共和国の場合にはとりわけ貴族身分――の影響力が強かったことも、これらの国家に共通する特徴である。他方で、神聖ローマ帝国にみられる領邦国家体制がポーランド=リトアニアでは成立せず、また、ハプスブルク国家は19世紀に入っても存続するなど、これらの3国家には互いに異なる特徴もみられる。シンポジウムでは、こうした近世の中・東欧地域の共通性と多様性をふまえながら、地域とアイデンティティの諸問題にかかわる具体的な論点を3名の報告者より提起していただくことになっている。 ポーランドの東中欧研究所のフベルト・ワシュキェヴィチ氏には、東中欧史をめぐる国際的な共同研究の成果をふまえて、中・東欧地域の歴史的アイデンティティの特質を、経済・社会・政治・文化の側面から多角的に論じていただく。ヴィーン大学のヴィンケルバウアー氏には、16・17世紀のボヘミアとオーストリアにおける貴族層の政治的アイデンティティについて報告していただく。宗派的・地域的に複合的であった貴族層のアイデンティティが、カトリック的・オーストリア的アイデンティティに統合されていく過程が論じられるであろう。リトアニア史研究所のローウェル氏は、中・近世のリトアニア大公国のなかで形成された地域的なアイデンティティが近現代リトアニアのナショナル・アイデンティティに変容していく過程を論じる。以上の問題提起的報告に対して、大津留厚氏がハプスブルク史研究の立場から、野村真理氏が民族史の視点から、羽場久シ尾子氏がEU拡大の行方を考える政治学・現代史の立場から、また、小山がポーランド=リトアニア共和国の事例をふまえて、それぞれコメントする予定である。 |
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京都大学大学院文学研究科/21世紀COEプログラム 「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」 13研究会「歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ」 |